東京地方裁判所 昭和43年(行ウ)74号 判決 1975年2月13日
東京都品川区大井四丁目一一番七号
原告
片岡産業株式会社
右代表者代表取締役
片岡良夫
右訴訟代理人弁護士
小林十四雄
右訴訟復代理人弁護士
渡辺文雄
同
松田武
東京都品川区南品川四丁目二番
被告
品川税務署長
右指定代理人
房村精一
同
柳沢正則
同
門井章
同
佐々木宏中
主文
1 被告が昭和四〇年一二月二五日付でした原告の昭和四〇年四月一日から同年八月二五日までの事業年度の法人税更正のうち所得金額六二二、一一一円をこえる部分及び過少申告加算税並びに重加算税の賦課決定を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
主文と同旨の判決
二 被告
1. 原告の請求を棄却する。
2. 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決
第二原告の請求原因
一 原告は、片岡温泉興業株式会社(以下「片岡温泉」という。)が昭和三九年八月一日設立された片岡産業株式会社(以下「旧片岡産業」という。)を昭和四〇年八月二五日吸収合併し、同日商号を「片岡産業株式会社」と変更したものである。
二 旧片岡産業の昭和四〇年四月一日から同年八月二五日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、原告のした確定申告、これに対する被告の更正(以下「本件更正」という。)、過少申告加算税及び重加算税の賦課決定並びに異議申立てについての決定の経緯は、別表(一)記載のとおりである。
三 しかし、被告がした本件更正(異議決定による一部取消後のもの。以下おなじ)のうち所得金額六二二、一一一円をこえる部分は、原告の所得を過大に認定した違法があり、したがって、本件更正を前提とする過少申告加算税及び重加算税の賦課決定も違法である。のみならず、旧片岡産業は所得金額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装したことはないから、重加算税の賦課決定は、この点からも違法である。
よって、被告のした本件更正のうち右金額をこえる部分、並びに過少申告加算税及び重加算税の賦課決定の取消しを求める。
第三被告の答弁及び主張
一 原告の請求原因第二の一及び二の事実は認めるが、同三の主張は争う。
二 本件更正の所得金額の算定方法を原告の申告額と対比すると、別表(二)のとおりである。
三 本件更正は、債務免除益計上もれ六、一三四、二八二円についてされたものであり、次のとおり適法である。
(一) 旧片岡産業は、昭和三九年一一月七日付の委任契約により、当時設立手続中であった片岡温泉の設立発起人組合から右発起人組合の所有に係る温泉給湯権の売却、その代金の取立て、管理、運用その他右に関する一切の権限を委任され、片岡温泉の設立される昭和四〇年六月三日までに合計四八口の分湯権(温泉給湯権が多数の口数に分割されたものをいう。)を売却し、その売却代金を取り立てた。その後昭和四〇年六月五日旧片岡産業は、片岡温泉と合併契約を締結するとともに、右合併契約書第一〇条第一号の規定により、昭和四〇年六月三日までに取り立てた前記四八口の分湯権売却代金のうち、一口当たり二二五、〇〇〇円をこえる金額について、片岡温泉から債権の放棄(以下「本件債権放棄」という。)を受けた。
(二) しかるに原告は、旧片岡産業の本件事業年度の法人税確定申告を行うに際し、前記四八口の分湯権のうち、公表帳簿に計上した二七口分についての債務免除益のみを益金として申告したのであるが、右二七口の分湯権の売却代金は合計一一六〇万円であるのに、芝亀吉に対する売却代金七〇万円を六〇万円と公表帳簿に記載して売却代金を合計一一五〇万円であるとした。
さらに、右計上分の売却口数につき、真実の売却口数は二七口であるのに架空の三口を計上し、これを三〇口であるとしたため、真実は売却金額一一六〇万円から六、〇七五、〇〇〇円(二二五、〇〇〇円×二七)を差し引いて債務免除益五、五二五、〇〇〇円を計上すべきであるのに、右一一五〇万円から六七五万円(二二五、〇〇〇円×三〇)を差し引いて債務免除益四七五万円を算出することにより七七五、〇〇〇円の債務免除益を不当に減少させた。
(三) 原告は、以下に述べるとおり、残余の分湯権二一口の売却代金一〇、〇八四、二八二円については公表帳簿にも記載せず、これらに係る債務免除益五、三五九、二八二円を隠ぺいした。
1. 石炭鉱業合理化事業団等に売却した分湯権八口について
旧片岡産業は、石炭鉱業合理化事業団等(以下「石炭鉱業等」という。)に分湯権八口を代金合計三一二万円で売却し、昭和四〇年六月三日以前に右代金を取り立てたから、三一二万円から一八〇万円(二二五、〇〇〇円×八)を差し引いた一三二万円の債務免除益を計上すべきであるのに、これを隠ぺいした。
2. 田久保三四郎等に売却した分湯権一三口について
旧片岡産業は、昭和四〇年四月二日田久保三四郎、吉橋鶴次郎、藤田芳子の三名(以下「田久保等」という。)に分湯権一三口を代金六、九六四、二八二円で売却し、代金を取り立てたから、右金額から二、九二五、〇〇〇円(二二五、〇〇〇円×一三)を差し引いた四、〇三九、二八二円の債務免除益を計上すべきであるのに、これを隠ぺいした。右売却の経緯等は、次のとおりである。
イ、昭和三八年九月柚原五助に対し、川田三郎は五〇〇万円、吉橋鶴次郎は二〇〇万円、藤田芳子は二〇〇万円を各貸付け、その担保として、伊東市宇佐美字洞の入三六二一番地の山林(三名分一二筆合計九二七坪)に対し所有権移転の仮登記を行い、その後の昭和三九年四月七日田久保三四郎は、川田三郎から柚原五助に対する右貸付債権五〇〇万円を譲り受けた。
しかるに、柚原は、右貸付金の返済期限である同年六月三日までにこれを返済しなかったため、田久保等は、同年六月三〇日柚原を相手どり、先に所有権移転の仮登記をしていた前記山林について所有権移転登記請求訴訟を提起した。
ところで、右訴訟が提起された頃には、旧片岡産業の代表者である片岡良夫が柚原の資産負債の一切(この中には本件分湯権の発生源たる鉱泉地一坪及び田久保等の柚原に対する貸付金が含まれている。)を引き継いでおり、その後、片岡良夫は右鉱泉地一坪を片岡温泉設立発起人組合へ引き渡し、さらに、同発起人組合が右鉱泉地に係る分湯権の売却、その代金の取立て、管理、運用その他右に係る一切の権限を旧片岡産業へ委任していたため、同年九月頃以後旧片岡産業が田久保等に対し、右訴訟事件について話し合いによる解決を申し入れた。
その結果、右事件は、昭和四〇年四月二日次の条件による裁判外の和解成立により解決した。すなわち、(1) 旧片岡産業は、田久保等が所有権移転の仮登記をしていた前記山林九二七坪のうち、四五八坪と分湯権一三口を田久保等に譲渡する。(2) 田久保等は、右山林四五八坪及び分湯権一三口と引き換えに、柚原に対する前記貸付金九〇〇万円及び田久保が後日柚原に貸し付けた三〇万円の合計九三〇万円の貸付債権元本を旧片岡産業に譲渡する。
そこで田久保等は、同日前記山林四五八坪(評価額三、八八八、四二〇円)及び分湯権一三口と引き換えに柚原に対する貸付債権元本九三〇万円を旧片岡産業に譲渡したものである。
ロ このように、旧片岡産業は、分湯権一三口の譲渡による対価として、田久保等の柚原に対する貸付債権の譲渡を受けたから、これにより売却代金を回収したというべきである。このことは会計的にみても、旧片岡産業が他に受託販売した分湯権の代金を回収した場合と同様に、貸借対照表上負債の部に「預り金」として処理されることからみても首肯されるのである。そして合併契約書第一一条にいう貸借対照表とは、旧片岡産業の昭和四〇年六月三日現在の真実の企業価値を表現する貸借対照表を指すものと解すべきであるから、簿外負債として存する分湯権一三口の取立代金が、合併契約書第一〇条第一号の「取立てたる給湯権売却代金」に含まれることは明らかである。
ハ 次に、右分湯権一三口の売却価額であるが、旧片岡産業は、分湯権を売却するに際し、取引の相手次第によって売値を操作し、田久保等に売却した一三口の分湯権については価額の取極めがなく、また旧片岡産業の諸帳簿上にもその価額について何ら記録されていない。また、原告が被告に提出した上申書(乙第六号証の一)には右分湯権一三口の売買価額は六八九万円(一口当たり五三万円)である旨の記載があるが、その算定方法には何ら具体的な根拠がないため、被告は、右分湯権一三口に対し、旧片岡産業が昭和四〇年一月一日から片岡温泉が設立された同年六月三日までの間に売却した別表(三)記載の分湯権七口の平均単価五三五、七一四円を乗じて、右分湯権一三口の合計売買価額を六、九六四、二八二円と算定したものである。
四 以上のように、旧片岡産業はその売却した分湯権に係る取立金額の一部を隠ぺい又は仮装したところに基づいて本件法人税の確定申告をしたので、被告は、右隠ぺい又は仮装した部分二、〇九五、〇〇〇円(第三の三(二)七七五、〇〇〇円と同(三)1一三二万円の合計額)に係る法人税額に対し国税通則法第六八条第一項により重加算税を賦課決定し、田久保等に売却した分湯権一三口に係る債務免除益四、〇三九、二八二円(同(三)2)については、売却代金を推計により算定したため、同法第六五条第一項により過少申告加算税を賦課決定したものである。
第四被告の主張に対する原告の認否及び主張
一(一) 被告主張の第三の二の事実は認める。
(二) 第三の三(一)の事実のうち、旧片岡産業が昭和四〇年六月三日までに売却しその代金を取り立てた分湯権が四八口であること、したがって、右四八口に係る売却代金が本件債権放棄の対象であったことは、いずれも否認するが、その余の事実は認める。同日までに旧片岡産業が売却し代金を取り立てた分湯権は二七口である。
(三) 同(二)の事実のうち、原告が本件事業年度の法人税確定申告を行うに際し、分湯権二七口分の債務免除益のみを益金として申告したこと、芝亀吉に対する売却代金を六〇万円と公表帳簿に記載して右分湯権二七口の売却代金を合計一一五〇万円としたこと、右売却口数を三〇口としたため、六七五、〇〇〇円の債務免除益を減少させたことは認めるが、その余の事実は否認する。
(四) 同(三)1の事実のうち、旧片岡産業が被告主張の金額で石炭鉱業等に分湯権入口を売却したこと、旧片岡産業の代表者である片岡良夫が昭和四〇年六月三日以前に石炭鉱業等から代金三一二万円を受領したことは認めるが、その余の事実は否認する。片岡良夫が石炭鉱業等から受領した金員は、当初片岡の土地売却代金として受領したものである。しかし、右土地の売買が分湯権付であるか否かにつき買主との間に争いを生じ、片岡は、土地代金回収の手段として分湯権の保証書を渡さざるをえなかったため、昭和四〇年一二月二日片岡良夫は右金員を分湯権売却代金として原告に引き渡したものである。したがって、同年六月三日以前に分湯権売却代金として取り立てたものとはいえない。
(五) 同三2の事実のうち、田久保等が柚原五助に対し九三〇万円の貸金債権を有していたこと、田久保等が柚原に対し被告主張の訴訟を提起したこと、別表(三)の分湯権売却代金が芝亀吉分を除き被告主張のとおりであることは認める。旧片岡産業が田久保等に対して分湯権一三口を売却した事実について、はじめ被告の主張事実を認めたが、その自白を撤回し、否認する。その余の事実は否認する。
旧片岡産業が分湯権一三口を売却したのは田久保等に対してではなく、柚原に対してである。すなわち、田久保等は、同人等が柚原に対して有する九三〇万円の貸金債権の弁済に代えて柚原所有の山林四五八坪及び旧片岡産業所有の分湯権一三口の譲渡を受けることにより柚原との紛争を解決することとし、そのため旧片岡産業は、昭和四〇年三月三一日柚原に対し右分湯権一三口を三八四万円で売却し、柚原がこれを田久保等に譲渡したものである。しかし、柚原に対する右売却代金は、同年六月三日までは勿論、その後も取り立てることができなかったものである。
このように、被告主張の分湯権二一口は同年六月三日までにその代金を取り立てることができなかったから、本件債権放棄の対象にはならないものである。
二(一) 仮に、被告主張のように、昭和四〇年六月三日までに第三の三(三)記載の二一口についても売却代金が取り立てられたとみられるとしても、本件債権放棄の対象となったのは、旧片岡産業が同日までに取り立てた二七口の分湯権売却代金についてのみであり、右二一口分は本件債権放棄の対象となっていない。
すなわち、片岡温泉は、旧片岡産業が同日現在の貸借対照表等に片岡温泉よりの負債として記載した分湯権二七口の売却代金についてのみ債権の一部を放棄することを約し、右以外の分湯権売却代金についてまでも債権を放棄する意思はなかったのであるから、旧片岡産業が同日現在の貸借対照表等に記載した金額以上の分湯権売却代金を収受していたとしても、それについては債権放棄を受ける権利を有するものではない。
(二) そもそも合併契約書第一〇条の規定は、旧片岡産業と片岡温泉とが合併するに際し、旧片岡産業は債務超過であるため、債務超過の会社は合併できない旨の登記実務に従い、債務超過を解消するため債権放棄による利益を計上しようとしたのであり、右債務超過を解消するのに必要な金額が四七五万円であった。つまり、片岡温泉は、二七口の分湯権に係る四七五万円という特定の金額について債権放棄の対象としたのである。したがって、同条の二二五、〇〇〇円という数字も、合併に伴い旧片岡産業の債務超過を解消するに必要な単なる計数上の金額にすぎないから、仮に債権放棄の時点において分湯権四八口が売却され、かつ、代金が取り立てられているとしたならば、片岡温泉が旧片岡産業から収受すべき分湯権の一口当たりの金額は、二二五、〇〇〇円とは異なる数額となっていたはずである。
第五原告の主張に対する被告の反論
一 石炭鉱業等に売却した分湯権八口について
片岡温泉発起人組合が分湯権の売却、その代金の取立て等の権限を委任し、これを受託したのは旧片岡産業であって、片岡良夫個人ではない。したがって、同人が保証書を石炭鉱業等に交付した行為は、同人が旧片岡産業の代表者たる地位においてしたもの、すなわち、旧片岡産業が受任行為として売却したものである。しかも片岡良夫は、発起人組合の発起人総代及び旧片岡産業の代表者の地位にあり、その間の事情を知悉しているのであるから、右代金を同人個人が収受すべきものでないことは明らかであったといわなければならない。したがって、右分湯権八口の売却代金は、昭和四〇年六月三日以前に旧片岡産業により取り立てられたというべきである。
二、第四の一(五)の自白の撤回には異議がある。
三、本件債権放棄の対象について
(一) 合併契約書第一〇条第一号の規定によれば、旧片岡産業は、昭和四〇年六月三日までに取り立てた分湯権四八口全部の売却代金につき一口当たり二二五、〇〇〇円をこえる金額について片岡温泉から債権放棄されたものとみるべきである。仮に、旧片岡産業が分湯権四八口全部の売却代金を片岡温泉からの預り金として経理し、このうち二七口分の代金のうち四七五万円のみが債権放棄の対象となるということが、合併契約締結当時において特定されていたとするならば、合併契約書第一〇条第一号のような規定の仕方によることなく、債権放棄の金額を明示するか又は債権放棄額と一致する分湯権の口数を特定して売却代金の全部を放棄する方法をとったはずである。
(二) 原告は、債権放棄は旧片岡産業の債務超過を解消するためであると主張するけれども、四七五万円の債権放棄があっても、なお五二、八八九円の繰越欠損金が残るから、旧片岡産業の欠損金額は消去されていない。むしろ債権放棄は、片岡温泉発起人組合の損益、ひいては設立時に同組合から原告に引き継がれるべき損益を生じさせないことを目的としたものというべきである。そうすると、簿外二一口の分湯権についても債権放棄の対象としない限り、原告の設立時に損益は生ずることとなるから、簿外の二一口も当然債権放棄の対象となるものである。
(三) 合併契約書における二二五、〇〇〇円という数字は、片岡温泉の設立に当たり片岡良夫から現物出資された鉱泉地一坪の価額一八〇〇万円を、予想される分湯権の口数八〇で除した金額であるから、分湯権一口当たりの現物出資価額というべきものである。したがって、原告主張のように、旧片岡産業の債務超過を解消するのに必要な単なる計数上の金額ではない。
(四) また、原告の主張は、真実の財産状態を表示していない旧片岡産業の貸借対照表等を正当化しようとするものにすぎない。すなわち、旧片岡産業の昭和四〇年六月三日現在の貸借対照表等には、二七口の分湯権に相当する片岡温泉からの負債しか計上されていなかったものであるが、これは二一口分の分湯権売却代金を隠ぺいしたことによるものだからである。仮に、右貸借対照表等が四八口全部の分湯権売却代金を預り金勘定等に経理することにより真実の取引内容を記録していたとするならば、合併契約書第一一条の規定によっても右四八口全部の分湯権に係る片岡温泉からの負債が当然に本件債権放棄の対象となっていたはずである。
(五) 原告の主張は、旧片岡産業及び片岡温泉の営業報告書の記載事項とも矛盾している。すなわち、旧片岡産業は、片岡温泉設立の日である昭和四〇年六月三日までに四八口の分湯権売却代金を取り立てていたのであるから、片岡温泉が旧片岡産業に対して二七口の分湯権売却代金についてのみ債権を放棄し、残る二一口分の分湯権売却代金について債権を放棄しなかったとするならば、右二一口分の売却代金は設立の日における片岡温泉の益金に計上されなければならないことになる。しかるに、旧片岡産業の第一期営業報告書及び片岡温泉の第一期営業報告書には、分湯権の売却口数はそれぞれ二七口とされており、また片岡温泉の営業報告書には、右二一口の分湯権売却に係る事項は全く記載されていない。
(六) 旧片岡産業と片岡温泉の合併に関する公正取引委員会に対する届出書類には、原告の主張するような事実はなんら明らかにされていない。したがって、仮に、合併契約書第一〇条が原告の主張するような動機で規定されたとしても、文言どおり解釈せざるをえないのである。
第六証拠関係
一、原告
(一) 提出した甲号証
甲第一号証から第四号証まで、第五号証の一から九まで、第六号証の一、二、第七号証から第一一号証まで、第一二号証及び第一三号証の各一から三まで、第一四号証の一、二並びに第一五証から第二三号証まで
(二) 援用した証言等
証人小佐々正規、同清水富美子及び同田久保三四郎の各証言並びに原告代表者の尋問の結果
(三) 乙号証の認否
乙第六号証の二のうち、委任文言中書込み部分の成立は否認するが、その余の部分の成立は認める。その余の乙号各証の成立はいずれも認める。
二、被告
(一) 提出した乙号証
乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証の一から三まで、第四号証、第五号証、第六号証及び第七号証の各一、二並びに第八号証から第一三号証まで
(二) 援用した証言
証人小出成維及び同田久保三四郎の各証言
(三) 甲号証の認否
甲第四号証及び第五号証の一から九までのうち、郵便官署作成部分の成立は認めるが、その余の部分の成立は知らない。第六号証の二(原本の存在及び成立)、第一一号証、第一二号証の一から三まで、第一三号証の二、三、第一四号証の一、二、第一七号証から第二〇号証までの成立は知らない。第一三号証の一のうち、石炭鉱業作成名義部分の原本の存在及び成立は認めるが、柚原五助作成名義部分の成立は知らない。その余の甲号各証の成立(第一五号証及び第一六号証については原本の存在及び成立)は認める。
理由
一、原告の請求原因第二の一及び二の事実は、当事者間に争いがない。
二、そこで、本件更正に原告の所得を過大に認定した違法があるかどうかについて判断する。
(一) 被告主張の第三の二の事実及び旧片岡産業は、昭和三九年一一月七日付の委任契約により、当時設立手続中であった片岡温泉の設立発起人組合から右発起人組合の所有に係る温泉給湯権の売却、その代金の取立て、管理、運用その他右に関する一切の権限を委任され、片岡温泉の設立される昭和四〇年六月三日までに分湯権を売却し、その売却代金を取り立てたこと、同月五日旧片岡産業は片岡温泉と合併契約を締結したが、右合併契約書第一〇条第一号の規定により片岡温泉から債権の放棄を受けたこと、原告は、本件事業年度の法人税確定申告を行うに際し、公表帳簿に分湯権二七口分の債務免除益のみを益金として申告したこと、芝亀吉に対する分湯権売却代金を六〇万円と公表帳簿に記載したこと、右分湯権二七口の売却口数を三〇口と計上したため、六七五、〇〇〇円の債務免除益を減少させたことは、いずれも当事者間に争いがない。
(芝亀吉に対する分湯権売却代金について)
(二) 成立に争いのない乙第二号証の一、二及び原告代表者尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一三号証の三によれば、旧片岡産業の芝亀吉に対する分湯権の売却及び取立代金は七〇万円であった事実が認められ、他に右認定に反する証拠はない。したがって、旧片岡産業の公表帳簿上、芝亀吉に対する分湯権売却取立代金に一〇万円の計上もれがあったというべきである。
(石炭鉱業等に対する分湯権八口の売却について)
(三) 旧片岡産業が石炭鉱業等に分湯権八口を代金合計三一二万円で売却したこと、旧片岡産業の代表者である片岡良夫が昭和四〇年六月三日以前に右金額の金員を受領したことは、当事者間に争いがない。
原告は、片岡良夫が石炭鉱業等から受領した金員は、当初土地代金として受領したものであるところ、右土地の売買が分湯権付であるか否かにつき争いを生じ、土地代金回収の手段として分湯権保証書を渡さざるをえなかったため、同年一二月二日右金員を分湯権売却代金として原告に引き渡したものであるから、同年六月三日以前に分湯権売却代金として取り立てたものとはいえないと主張する。
成立に争いのない甲第一〇号証、乙第一号証、第三号証の一から三まで、原告代表者尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一七号証、第一八号証、証人小佐々正規、同清水富美子、同小出成維の各証言及び原告代表者尋問の結果に前記争いのない事実を合わせると次の事実を認めることができる。
旧片岡産業の代表者である片岡良夫は、昭和三八年一〇月から同三九年三月にかけて、伊東市宇佐美字洞ノ入三六二一番地の山林を学園台別荘地として売り出していた柚原五助に対し多額の金銭を貸し付けていたのであるが、柚原が昭和三九年五月倒産したため、同月六日右貸金債権の弁済に代えて、右山林に係る売買代金債権及び柚原所有の同所三六二一番一五五鉱泉地一坪を取得した。片岡は右鉱泉地一坪を現物出資して温泉の売買斡旋、管理等を目的とする片岡温泉を設立すべく手続を進めたのであるが、検査役の調査等に相当の期間を要するため、昭和三九年八月一日設立された旧片岡産業が片岡温泉設立発起人組合からその間における右分湯権の売買、代金の取立て等の委託を受けた。片岡が柚原から取得した前記売買代金債権のうちには、石炭鉱業等に売却した土地に係る債権も含まれていたのであるが、右土地の売買が分湯権付であるか否かにつき買主との間に争いがあり、片岡は石炭鉱業等から土地代金を受領するに際しては、石炭鉱業等の要求に応じて、旧片岡産業名義による温泉を給湯することを保証する旨の保証書を交付し、右代金の領収証も旧片岡産業名義で発行した。しかし片岡は、右の経緯から、石炭鉱業等から受領した代金は土地代金のみであるかの如く考え、旧片岡産業に入金しないでいたところ、公認会計士より、旧片岡産業の保証書が発行されている以上は分湯権の売却代金として処理すべきである旨指摘され、昭和四〇年一二月二日に至りその旨の処理をしたことが認められ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
右認定の事実によれば、旧片岡産業は、昭和四〇年六月三日の時点においては、片岡が石炭鉱業等から受領した代金をまだ分湯権売却代金として扱っていなかったが、少なくとも石炭鉱業等との間においては、旧片岡産業の代表者である片岡が分湯権売却代金として受領したものが含まれていたと認められ、かつ、旧片岡産業も後日これにそった経理上の処理をしているのであるから、右代金は、同日までに取り立てられたものと認めるべきである。
(田久保等に対する分湯権一三口の売却について)
(四)1. 次に、旧片岡産業が田久保等に対し分湯権一三口を売却し、昭和四〇年六月三日までに右代金を取り立てたかどうかについて判断する。
田久保等が柚原に対し九三〇万円の貸金債権を有していたこと、田久保等が柚原に対し被告主張の訴訟を提起したことは、当事者間に争いがない。
旧片岡産業が田久保等に対して分湯権一三口を売却した事実について、原告は、はじめ被告の主張事実を認めたが、後に右自白を撤回した。しかしながら、右自白は、本件の争点に関する重要な事実に関するものであるところ、それが真実に反する陳述で錯誤に基づいてしたものであることを認めるに足る証拠はないから、右自白の撤回は許されない。
前掲甲第一七号証、第一八号証、成立に争いのない乙第四号証、第五号証、第七号証の一、二、第八号証、第九号証、証人田久保三四郎及び同小出成維の各証言に前認定の事実を合わせると、次の事実を認めることができる。
川田三郎、吉橋鶴次郎、藤田芳子の三名は、昭和三八年九月それぞれ柚原に金員を貸し付け、右貸金(三名の貸金合計九〇〇万円)の担保として、それぞれ柚原所有の伊東市宇佐美字洞ノ入三六二一番地所在の山林一二筆合計九二七坪に対し所有権移転の仮登記を行い、その後昭和三九年四月七日田久保は川田から柚原に対する右貸金債権の譲渡を受けた。しかしその後柚原は倒産し、返済期限である同年六月三日までに右貸金を返済しなかったため、田久保等は、同月三〇日柚原を相手どり、先に所有権移転の仮登記をしていた前記山林について、所有権移転登記請求訴訟を提起した。当時すでに柚原から右山林に係る売買代金債権及び鉱泉地を代物弁済により取得し、その他柚原の資産をその支配下に置いていた片岡良夫は、田久保等に対し右訴訟事件について話し合いによる解決を申し入れた。その結果、田久保等が所有権移転の仮登記をした山林のうち四五八坪につき、同人等に所有権移転登記手続をすること及び旧片岡産業は分湯権一三口を田久保等に譲渡することとし、これと引き換えに、田久保等は、柚原に対する貸付金九〇〇万円及び田久保が後日柚原に貸し付けた三〇万円の合計九三〇万円の貸金債権を旧片岡産業に譲渡することで和解が成立し、昭和四〇年四月二日田久保等は、右山林四五八坪及び分湯権一三口の取得と引き換えに、柚原に対する貸付債権九三〇万円を旧片岡産業に譲渡した。
以上の事実が認められ、証人清水富美子の証言及び原告代表者尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
2. 被告は、旧片岡産業は、分湯権一三口の譲渡による対価を田久保等の柚原に対する貸金債権の譲渡を受けることにより回収したから、右一三口についても合併契約書第一〇条第一号の昭和四〇年六月三日までに取り立てた給湯権売却代金に当たると主張する。
そこで、まず右合併契約書第一〇条第一号がどのような経緯により成立したかを検討する。
成立に争いのない甲第六号証の一、第七号証、第八号証、乙第一二号証、証人小佐々正規の証言により原本の存在及び成立の認められる甲第六号証の二に、証人小佐々正規、同清水富美子の各証言及び原告代表者尋問の結果を合わせると次の事実を認めることができる。
旧片岡産業も片岡温泉も、いずれも片岡良夫を代表者とし、同人の支配する個人会社というべきものであるが、片岡温泉が設立されるまでの間、分湯権の売却等を同社設立発起人組合から委任された旧片岡産業は、片岡温泉の設立と共に同社に吸収合併する方針が立てられた。ところで、旧片岡産業が売却し取り立てた分湯権の売却代金は、本来委任契約の趣旨に従い委任者たる片岡温泉に引き渡すべきものであるが、消滅会社となる旧片岡産業は債務超過を生じており、債務超過の会社は合併することができない旨の有力学説及び登記実務の取扱いに従い、片岡温泉は昭和四〇年六月三日までに旧片岡産業が取り立てた代金の引渡請求権の一部を放棄し、反面、旧片岡産業において同額の債務免除益を計上することにより債務超過を解消し、合併を可能ならしめようと考えた。そこで、同日までに旧片岡産業が取り立てた代金のうち六七五万円は片岡温泉の収入とし、その余は債権放棄することとした。
以上の事実を認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。右の事実によれば、本件債権放棄は、まさに旧片岡産業の債務超過を解消するために意図せられたものであることは明明らかであり、しかも債権放棄の対象となるのは、委任者たる旧片岡産業が受任事務として他から受領した金銭の引渡請求権の一部であるから、旧片岡産業が「取立てた」というには、委任当事者間に格別の合意がない限り、現実に金銭又はこれと同視しうるものの受領を要すると解すべきである。しかるに、旧片岡産業が田久保等から分湯権一三口の対価として取得したものは、田久保等の柚原に対する貸金債権であるが、前掲乙第九号証及び証人田久保三四郎の証言並びに原告代表者尋問の結果によれば、当時柚原は倒産し、行方不明のような状態にあり、右貸金債権は、譲受当時すでに回収の見込みのないものであり、旧片岡産業は昭和四〇年六月三日までに柚原から何ら債権を回収することができなかったことは勿論、その後もほとんど回収することができなかったことが明らかであるから、右の債権の譲渡を受けたからといって、合併契約書第一〇条第一号にいう「取立て」があったとみることはできない。
3. 被告は、旧片岡産業の譲受債権は、代金回収の場合と同様、貸借対照表負債の部に預り金として処理されるから、旧片岡産業が取り立てたものとみるべきであると主張する。
しかしながら、被告の右主張は会計的処理にとらわれた考えであり、合併契約書第一〇条第一号の「取立てた代金」の解釈については先に示したとおりであるから、右主張は理由がない。
4. 以上認定したように、旧片岡産業が昭和四〇年六月三日までに取り立てた分湯権売却代金は、公表帳簿に記載された二七口(その中、芝亀吉に対する売却代金の計上もれ分一〇万円がある。)のほかに、石炭鉱業等に対する八口を加えた合計三五口であるというべきである。
(本件債権放棄の対象について)
(五)1. 被告は、本件債権放棄の対象となったのは、昭和四〇年六月三日までに旧片岡産業により取り立てられた分湯権四八口についてであると主張し、これに対し原告は、公表帳簿に記載した二七口に係る四七五万円についてであると主張するので、この点について判断する。
なるほど、前掲合併契約書第一〇条第一号の規定の文言によれば、昭和四〇年六月三日までに旧片岡産業が代金を取り立てた分湯権は、すべて、すなわち、それが公表帳簿に記載されたものであると否とを問わず、債権放棄の対象となっていたとみられないこともない。しかしながら、右の規定は、旧片岡産業と片岡温泉との間の債権放棄契約である以上、当事者の意思を無視した解釈を採りえないことは当然であって、課税所得の算定のため債務免除益の存否を認定するにあたっても、当事者の意思にそって債権放棄契約の内容を理解すべきことは、いうまでもない。前認定のように、当事者の意図したところは、合併の前提として旧片岡産業の債務超過を解消する点にあったのであるが、前掲甲第六号証の一、二、第七号証、第八号証、乙第一二号証、成立に争いのない甲第一号証から第三号証までに証人小佐々正規、同清水富美子の各証言を合わせると、
旧片岡産業の昭和三九年八月一日から同四〇年三月三一日までの営業報告書には分湯権の売却は二七口であった旨記載されていること、片岡温泉も同様の認識を有しており、同社の損益計算書に給湯収入として六七五万円が計上されていること、旧片岡産業の本件事業年度の法人税につき被告に提出した確定申告書に添付された損益計算書には、債務免除益として四、一九七、五三四円が計上されているが、これは分湯権二七口分に相当する債務免除益四七五万円から旧片岡産業の片岡温泉に対する立替金債権放棄分五五二、四六六円を差し引いた額であること、分湯権二二七口以外の売却代金二四口分は、原告の昭和四〇年六月三日から同四一年三月三一日までの事業年度の収入として申告されていることが認められ、これらの事実を総合すれば、旧片岡産業と片岡温泉の間においては、昭和四〇年六月三日当時取立てずみの分湯権売却代金として両当事者に認識されていた二七口分に係る四七五万円を本件債権放棄の対象として合併契約を締結したものであって、芝亀吉分一〇万円及び石炭鉱業等に対する八口並びに田久保等に対する一三口は、債権放棄に関する合意の対象とはされていなかったと認めるのが相当である。
もっとも、成立に争いのない乙第六号証の一(上申書)、委任文言のうち書込み部分を除き成立に争いのない乙第六号証の二(委任状)には、原告が田久保等関係の分湯権一三口に関する債務免除益の計上もれを認めていたかのごとき記載がみられる。しかし、原本の存在及び成立について争いのない甲第一五号証、第一六号証、証人小佐々正規、同清水富美子の各証言及び原告代表者尋問の結果によれば、原告に対する被告係官の調査当時、原告代表者片岡良夫は、右分湯権一三口の評価に関し安田税理士に被告との交渉方を委任したのであるが、それが旧片岡産業の本件事業年度における計上もれに該当するかどうかについて、安田税理士と小佐々公認会計士及び原告との間で見解の相違があり、原告代表者片岡良夫は、安田税理士が被告に提出した右上申書の記載内容を納得せず、これに捺印を拒んだこと、及び前記委任文言のうち書込み部分も片岡の意思に基づくことなく安田税理士が書き込んだことが認められる。したがって、これらの文書によって、二七口以外の分湯権についても本件債権放棄の対象となった事実を原告が自認したものと認めることはできない。証人小出成維の証言中右認定に反する部分は前掲各証拠に照らして採用し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
2. 被告は、仮に、分湯権二七口の代金のうち四七五万円のみが債権放棄の対象になるということが合併契約締結当時において特定されていたとするならば、合併契約書においても、債権放棄の金額を明示するか、又は債権放棄額と一致する分湯権の口数を特定して売却代金の全部を放棄する方法をとったはずであると主張する。
しかしながら、証人小佐々正規の証言によれば、合併契約書の作成にあたり、旧片岡産業の片岡温泉に対する債権放棄額については、その計算に日時を要するため、合併契約書第一〇条第二号において抽象的な表現方法を採用したのであるが、それとの均衡上、片岡温泉の旧片岡産業に対する債権放棄額も確定金額で表現しなかったことが認められ、かつ、本件の分湯権は、それぞれ取引の相手方により売却代金を異にするのであるから、分湯権一口当たりの片岡温泉の収受額を基礎に債権放棄を算出する方式をとったとしても、あながち不自然とはいえない。したがって、合併契約書において被告の主張するような表現方法を採らなかったからといって、債権放棄の対象を二七口分と認定する妨げとなるものではない。
3. 被告は、四七五万円の債権放棄によっては、旧片岡産業の欠損金額は消去されておらず、むしろ本件債権放棄は、片岡温泉設立時に片岡温泉設立発起人組合から原告に引き継がれるべき損益を生じさせないことを目的としたものであると主張する。
しかしながら、本件債権放棄が旧片岡産業の債務超過の解消を目的としたものであることは、既に認定したとおりであり、被告主張のように、欠損の消去を目的としたもの、又は、片岡温泉設立時に片岡温泉設立発起人組合から原告に引き継がれるべき損益を生じさせないことを目的としたものであることを認めるに足る証拠はない。被告主張のように、繰越欠損金が存するからといって、債務超過が解消されていないということはできず、現に、前掲乙第一二号証、証人小佐々正規及び同清水富美子の各証言によれば、旧片岡産業は、合併期日たる昭和四〇年八月二五日現在において債務超過の状況になかったことが認められるから、被告の右主張は理由がない。
4. 被告は、合併契約書第一〇条第一号における二二五、〇〇〇円という金額は、旧片岡産業の債務超過を解消するに必要な単なる計数上の金額ではなく、分湯権一口当たりの現物出資額であると主張する。
なるほど、成立に争いのない乙第一〇号証及び原告代表者の尋問の結果によれば、二二五、〇〇〇円は分湯権一口当たりの現物出資額に相当する金額であることが認められるが、これに証人小佐々正規の証言及び前認定の事実を合わせると、二二五、〇〇〇円は、分湯権一口当たりの現物出資額であると同時に、これに三〇を乗じた六七五万円(片岡温泉では当初分湯権の売却口数を誤って三〇としていた。)を片岡温泉の収受額として、公表帳簿に記載された分湯権二七口の売却代金一一五〇万円から六七五万円を控除した残額四七五万円が旧片岡産業の債務超過を解消するに足る金額であることを逆算して検討した上で合併契約上に用いられた数額でもあることを認めることができるのであって、他に右認定を左右するに足る証拠はない。よって、被告の右主張も理由がない。
5. 次に被告は、原告の主張は、真実の財産状態を表示していない旧片岡産業の貸借対照表を正当化しようとするものであり、もし貸借対照表に分湯権四八口全部が正しく計上されていれば、四八口全部の代金が債権放棄の対象となったはずであると主張する。
しかしながら、旧片岡産業においては、昭和四〇年六月三日現在において分湯権四八口の取立てがなかったこと、また片岡温泉と旧片岡産業との間において意図したところは、分湯権二七口の代金に関し債権放棄を約するものであること先に認定したとおりであるから、被告の右主張はその前提を欠き理由がない。
6. 被告は、原告の主張は、旧片岡産業及び片岡温泉の営業報告書の記載事項と予盾すると主張する。
しかしながら、被告の主張は、昭和四〇年六月三日当時旧片岡産業が四八口の分湯権売却代金を取り立てていたことを前提とするものであるところ、旧片岡産業においては三五口分の分湯権売却代金しか取り立てておらず、しかも、うち八口分は分湯権売却代金として認識、経理されていなかったこと前認定のとおりであるから、旧片岡産業と片岡温泉の各第一期営業報告書に分湯権の売却口数が二七口とされ、片岡温泉の営業報告書に残二一口の分湯権売却に係る事項が記載されていないことは当然であり、被告の右主張は理由がない。
7. 被告は、旧片岡産業と片岡温泉の合併に関する公正取引委員会に対する届出書類には、原告の主張するような事実はなんら明らかにされていないと主張する。
しかしながら、合併契約締結に際しての債権放棄の有無及びその事情等は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第一五条第二項の規定による合併の届出に関する届出書及び添付書類にその記載が要求されていないのであるから(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第十条から第十六条までの規定による届出、認可申請及び報告に関する規則(昭和二八年公取委規則一号)第七条参照)、右の届出書類に記載がないからといって、前認定のような事情のもとに本件債権放棄が行われたことを認定する妨げとなるものではない。よって被告の右主張も理由がない。
(六) 以上認定したところによれば、原告の確定申告には、六七五、〇〇〇円の債務免除益の計上もれがあるにすぎないから、別表(二)によりその所得金額を計算すると、所得金額は六二二、一一一円となる。そうすると、本件更正のうち所得金額六二二、一一一円をこえる部分は違法であり、したがって、これに対する過少申告加算税及び重加算税の賦課決定もまた違法といわなければならない。
三、次に六七五、〇〇〇円の債務免除益計上もれに対する重加算税の賦課決定に、国税通則法第六八条第一項の要件を欠く違法があるかどうかについて判断する。
右の債務免除益計上もれは、旧片岡産業において、債権放棄の対照となった分湯権二七口を三〇口と計上していたために生じたことは、当事者間に争いがないけれども、このことについて故意に事実を隠ぺいし又は仮装していたと認めるに足る証拠はない。よって重加算税の賦課決定のうち右の部分も違法といわなければならない。
四、よって、本件更正のうち所得金額六二二、一一一円をこえる部分及び過少申告加算税並びに重加算税の賦課決定の取消しを求める原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 杉山克彦 裁判官 時岡泰 裁判官 青柳馨)
別表(一)
<省略>
別表(二)
<省略>
別表(三)
<省略>